「あわら田」、耳なれない言葉である。北陸の地方によっては漢字で「湶田」また「磔田」などど記すところもあるとされる。
 ここに展示の写真の所在は富山県中新川郡上市町白萩、富山市から数十qのところで背後に南アルプスの連山が連なり湧水に恵まれた山村である。
 今から58年前の昭和34年(1959年)は、大学4年の、卒業論文のテーマを「湿田と灌漑」とし“あわら田”の現地調査を行った。展示の多くの写真は、この時の記録である。
 “あわら田”の写真について、ぼくの撮影よりほぼ10年前に写真家で先達の濱谷浩氏が既に発表していて、その評価は高く写真界に話題をまいた。山寒の農村で育ったぼくにとって、田植え時に胸まで泥土の圃場に身体を沈めて農作業を行う状況に強い衝撃を覚えたものだ。
 その翌年(1960年)にぼくは社会に出た。日本は新安保条約をめぐり政治的に激動の真っ只中にあった。ぼくはジャーナリズム界で生きる道を選び報道写真家を志すことになった。デビュー作となる水俣病事件に取りかかったのは、この年であるのだが、それから半世紀余を経て2012年に“あわら田”の白萩集落の現場を再訪した。富山県は湿田を乾田化するため圃場の水を下方に流す土木工事が施工され、湿田の情景はすっかっり姿を消していた。
 湿田の耕作は北陸地方(富山県、福井県)での点在する現実であったのだが、戦後の日本の疲弊しきった経済の厳しい状況を象徴しているようでもあって、今でもあの寒村が心に残る。

                                       報道写真家 桑原史成
 本館は、日夜変貌をとげている国内外のさまざまな出来事を、写真を通じて身近に紹介する場として設置されました。
 その主旨にそって、写真は、一瞬の出来事から忘れてはならない歴史の痕跡までを忠実に記録している報道写真という分野を、本町出身で、報道写真家として第一線で活躍されている桑原史成氏の写真を中心に展示しています。
 私たちの記憶の奥に埋没している歴史の一コマーコマを、来館者の皆さまが、展示写真からその記憶に再現していただけたら幸いです。

桑原史成
くわぱらしせい
        

桑原史成写真美術館開館20周年記念 
次回「英伸三・桑原史成ドキュメント二人展」
H29.10.20〜H30.1.17
 平成29年度 第2期展 「あわら田〜敗戦から15年、ある農村の記録〜」
H29.7.21〜H29.10.18
H29年10月19日(木)は作品の入れ替えのため休館します。
※今期より展示替えの期間を変更しました。

SHISEI KUWABARA MUSEUM OF PHOTOGRAPHY